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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)121号 判決

岡山市高松208番地

原告

小川操

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

青山紘一

産形和央

田中靖紘

市川信郷

土屋良弘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第20608号事件について、平成4年4月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  事案の概要

1  成立の争いのない甲第1号証、いずれも弁論の全趣旨によって成立の認められる乙第1~第3号証、その方式及び趣旨により真正な公文書と推定される乙第9号証並びに弁論の全趣旨により、以下の事実を認めることができる。

(1)  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年10月29日、発明者を原告、名称を「偏心回転洗濯機」(後に「布団など洗濯方法」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和60年特許願第243574号)が、平成元年10月23日に拒絶査定を受けたので、同年12月20日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成1年審判第20608号事件として審理し、平成4年4月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月4日、原告に送達された。

(2)  本願発明の要旨

立型の回転する内洗濯槽(2a)の円心を支軸〈3〉に填め、支軸〈3〉の作用により内洗濯槽(2a)の外周壁1部が、回転する外洗濯槽〈1〉の中から内周壁1部え、各槽の間隔え挟んだ布団などを、安定均等にバネの弾力で移動偏心押圧するように、支軸移動装置取付盤〈5〉に取付けて、外洗濯槽〈1〉の内え設けて出来る支軸〈3〉の作用を特徴とする布団など洗濯方法。(平成2年1月19日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲第1項に記載されたとおり。)

(3)  審決の理由の要点

審決は、本願発明の要旨を上記のとおりと認定し、本願発明と特公昭52-31664号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明とは、ともに布団などの押絞洗濯方法に関するものであって、本願発明で使用する回転洗濯機がたて型であるのに対し、引用例1の発明で使用する布団等押絞洗機がよこ型である点で両者は相違するけれども、洗機の構成において実質的な差異は認められないとし、たて型の押し洗い式回転洗濯機は、実願昭58-941号(実開昭59-108587号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)及び実公昭55-9892号公報(以下「引用例3」という。)にも見られるように本願出願前公知のものであり、引用例1記載のよこ型の回転洗機をたて型にすることは、当業者が容易になしうる設計的事項であって、このようにしたことによる効果も格別のものとは認められないとして、本願発明は、特許法29条2項に該当し、特許を受けることができないと判断した。

2  本件は、上記事実関係の下で、原告が、本願発明は引用例発明1~3に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとした審決の判断は誤りである旨などを主張して、審決の取消しを求めている事案である。

第3  当裁判所の判断

1  成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例1は、原告が発明者及び出願人である昭和46年特許願第16643号に係る特許公報であり、そこには、横型に配置され、回転する内周押絞回転ドラム2の内部に、同じく横型に配置され、可偏心装置により上記ドラム2に対して偏心可能とされた回転可能な外周押絞可偏心回転ドラム3を設け、この両ドラム2、3を回転させることにより、この間にある布団等の洗濯物を順次押絞し、洗浄する布団等の洗濯方法が示されていると認めることができる。

引用例1に記載されたこの洗濯方法と前示本願発明の要旨に示された洗濯方法とを比較すると、両者は、内外の両ドラムが縦型に配置されるか、横型に配置されるかの点で相違するが、その余の点、すなわち、回転する内周押絞回転ドラムの内部に、可偏心装置により上記ドラムに対して偏心可能とされた回転可能な外周押絞可偏心回転ドラムを設け、この両ドラムを回転させることにより、この間にある布団等の洗濯物を順次押絞し、洗浄するものである点で一致し、両発明間には、上記相違点以外に、表現上のものは別として、実質上の差異はないことが認められる。

したがって、両発明の一致点及び相違点についての審決の認定に誤りは認められない。

2  成立に争いのない甲第5号証並びにその方式及び趣旨により真正な公文書と推定される乙第8号証によれば、本願出願前の刊行物である引用例2及び同3には、引用例1に記載された発明や本願発明のものとは異なる態様のものとはいえ、縦型に配置された洗濯槽の内部に、偏心して洗濯槽沿いに回転する押圧体を設け、これにより洗濯物を押し洗いする洗濯方法が記載されていることが認められる。

このような本願出願前の公知の技術の下では、引用例1の洗濯方法についても、横型の回転洗濯機を縦型に変えることに伴う固有の難点が存在しない限り、これを縦型とすることに想到することは、当業者にとって格別の困難性がないことは明らかである。

前掲乙第1~第3号証により認められる本願明細書には、「出願人の昭和46年出願、昭和52年特公昭31664は、横型で立型にその儘で使用出来る方法構造は全く無く立型に比較して重力、構造、作用など基本的に全く異なるもので、布団などの洗濯に適せず生産も全くされてゐない。」(乙第2号証明細書2頁5~9行)と記載されており、これによれば、引用例1に記載された横型の布団押絞洗機の構成と対比し、本願発明の要旨に示された本願発明で使用される縦型の洗濯機の構成には、「重力、構造、作用など基本的に全く異なる」ことに対処するための格別の構成がなければならないはずであるのに、両者が洗濯機の構成として実質的に差異がないことは上記のとおりであるから、横型を縦型とすることに伴う固有の難点があるとは認められず、本件全証拠を検討しても上記難点の存在を見いだすことができない。

したがって、引用例発明1の横型を縦型に変えて本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易であったといわなければならない。

また、横型を縦型に変えたことにより予測できない格別な効果が生ずることは、本件全証拠によっても認めることができない。

以上のとおりであるから、審決が、本願発明は引用例1~3から容易に発明することができたものであり、特許法29条2項により特許を受けることができないと判断したことに誤りは認められない。

5  その他にも、審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担にっき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

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